研究紹介:人とのつきあい方を科学で考える
2022.11.30ニュース学内ブログ在学生・卒業生向け地域創成学科
地域創成学科の佐々木達矢(ささきたつや)です。今回は私の研究トピックと最近の研究成果について簡単に紹介したいと思います。
私は数学とコンピューターによる計算を用いて、ヒトの持つ道徳性にどのような生物学的・社会学的な背景があるのかを調べています。例えば、「もちつもたれつ」が大事だとよく教わりますが、どのような場合でも上手くいくものでしょうか?もし二人だけの世界で、互いに協力しあう関係(互恵性)を創ろうと思ったら、キーポイントは、相手が助けてもらったのにお返しをしてくれない人(フリーライダー)だと見抜いたらキッパリ協力をやめることです。
但し、私たちの社会では、協力する関係は二人の間の、直接的なものだけに限ったものではありません。三人以上の人々のネットワークへも協力が拡がることが重要です。実際に、「情けは人のためならず」という諺が示すように、たとえ次にいつ会えるか分からないような相手に対しても、(いつかは自分の為になるから)親切にしてあげなさいと、よく言われます。では、どうしてそう(カッコの様に)なるのでしょう。
このことの説明として、例えば、過去に人を助けた行動が、それを目撃した人からうわさ話や評判情報として他の人へと伝わり、将来的に第三者から間接的に返ってくるということが考えられます。これは「間接互恵性」と呼ばれている仕組みです。他の人たちがこのように行動することが期待できるなら、協力が人々の間へ広まっていきそうですね。初見の人でも助けようとする行為には、それなりの合理的な理由があるというわけです。
面白いことに、私たちが人を評価するときの価値基準は一つではなく、どのような人が善いか悪いか、社会には様々な見方(規範)があり、それらは共存しています。私が研究しているグループでは、個々の規範が人間の社会的な協力行動に与える影響ついて、これまで精緻な分析を進めてきました。最近では、多種多様な規範が混在する中から、どのような過程を経て、どのような規範が社会で受け入れられるのか、主にコンピューターを使った計算論的手法で解明を進めています。最新の研究成果は、オンラインジャーナルFrontiers in Physicsに掲載されました。オープンアクセスなので自由にダウンロードできます。
- Frontiers in Physicsの論文全文
Citation: Yamamoto H, Okada I, Uchida S and Sasaki T (2022) Exploring norms indispensable for both emergence and maintenance of cooperation in indirect reciprocity. Front. Phys. 10:1019422.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphy.2022.1019422/full